後ろ姿


Arigatou [Kokia] romaji & english sub


昨日、三男がインドへと発った。
「今ニューデリーに着いた」とラインがポツリ。



私は彼の育児放棄をしてきた。
生まれて間もなく、壁が迫ってくるような孤独感と恐怖の中に陥り抱く事さえ出来なかった。
生後10か月で義父にあずけて仕事に出た。
それから15年、私は家庭を一切顧みる事は無く仕事に没頭した。
参観会、運動会そして入学式や卒業式も全て出なかった。



後に通っていた精神科でその頃の事を「いつかこの子を殺すと思いました」・・・そう告げた。
医師はただ黙って聞いていた。
空白の時間だけが過ぎていった。
そこは老人病院の精神科で、本来私は診てはもらえないのだが任意で受け入れてくれた。



中三になって初めて彼の参観会に出た。
間もなく家庭訪問があり、先生が開口一番「先日の参観会の朝、あの子は私の所へ走り寄ってきて「今日お母さんがくるんだ」そう言ってきました。中三の男子がそんな事を言うなんてことはまずないですよ。何故今まで来てあげなかったのですか?今日は勉強や進路の事よりその事だけを言いに来ました」と言った。
私は言葉が無かった。
15年の間、彼に犯した罪がその言葉に集約されていた。


あの頃私は一体何から逃げようとしていたのだろう。
逃げ場所など何処にもないのに・・・。
彼にとって一番大切な時間の記憶が全く私には無い。
私の中で、冷たいものが心を突き刺していく・・取り返しのつかない大きな罪。
もし私がもっと愛情を注いでいたら、彼には今とはまた違った未来があったのかもしれない。



彼がこの家を出てもう何年経つだろう。
どんどん手の届かないところへと行ってしまう、そして今日本にすらいない。
もう後ろ姿を見送るしか私には出来ない。


五体満足に生まれてきてくれた、ただそれだけを感謝して育ててあげればよかった。
今、彼がどのような人生を歩んでいこうとも自分自身にとって幸せになれますようにと願うばかりです。


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